多動症と歪な托卵

小一の頃、クラスに多動症の男の子がいた。

授業中に歩き回ったり周りの子に唾を吐いたり乱暴なことをする、自分のためにも人のためにも支援学級に入ったほうがいいような子だった。

私はその男の子にまとわりつかれてしまった。

 

 

席替えで隣同士になってよく授業でペアになったりするので、それがきっかけで話したり遊んだりするようになった。公文の生徒で算数が得意な早い人だった。

でも、一緒にいるうちにその子は「嫌な感じの人」だということに気づいた。

給食の時間、紫陽花ゼリーという梅雨限定の寒天がデザートに出た。楽しみに最後まで取っておいた私のそのゼリーに多動症くんは何故か唾を吐きかけた。

そのことを先生に伝えると余っていたゼリーをもらえた。でもまた多動くんは唾を吐いてきた。それで結局私はデザートを食べられなかった…。

その他にもクラスメイトの女の子の頭に唾を吐きかけたり、手加減なしでゲンコツをする乱暴で怖い男の子だった。

休み時間になるとそんな多動症くんに付き纏われるようになって、それが嫌で保健室で授業をサボったことがあった。そしたら昼休みに校庭で摘んだたんぽぽを見舞いに持ってきやがった。学校のどこにいても心が休まらなかった。

 

 

私の家に多動症くんがきた日は、もう地獄だった…。

こたつのレベルを最強にして焦げた匂いを家中に充満させて、金魚の水槽に大量の餌を突っ込んだ。そして食器洗剤を家中に撒き散らした。今もあの時の洗剤と焦げの匂いを思い出す。

私がやめてと言っても彼は聞く耳を持たず、家の中で暴れまくっていた。

叔母のパソコンにも洗剤がかかっていて、これは良くないと多動症くんの家に苦情の電話を入れたら向こうの母親に逆ギレされたらしい。

こっちもこっちで多動症君を産んで苦労してるとかなんとか…そういうニュアンスのことを言ったらしい。嫌な男の子だったけど、多動くんを不憫に思う。

 

 

入ってはいけない敷地に私を引きずり込むこともあった。人目のつかない柵に囲まれた場所に連れ込んで私を帰そうとしなかった。私の持っていたキッズケータイを奪い電源を切って、あたりが暗くなっても私を帰そうとしなかった。

私を探しにきた祖母と出くわすと私の腕を引っ張って逃げた。

私は多動症くんに抵抗しようとすると殴るふりをされて脅された。だから言うことを聞くことしかできなかった。

マンションの貯水槽にのぼらされたことがあった。私はよくないことだと言うも、多動症君は「こないとぶつぞ」と私を脅す。

泣きそうな気分ではしごを登っていたら管理人さんに見つかった。

こらー!と怒られ多動症くんは柵を越え逃亡。多動くんは逃げろと私に促していたけど、私はてっぺんでとりのこされてわんわん泣いていた。大人がきてくれたことに安心したから。

管理人さんが私に事情を聞き、私の持っていたケータイで祖母に電話をかけて迎えがきた。ほんとう管理人さんには感謝しているわ…。

 

 

ある時から学校の帰りに多動くんに無理矢理彼の家に連れて帰られるようになった…。

私に殴るふりをしながら「ついてこい」と脅して私を強く引っ張った。私は怖くて怖くて仕方なく彼について行った。

ついたのは多動症くんの家。家には彼の母親がいて、何故か私にご飯を作ってくれた。遠慮しても「大丈夫だから食べなさい」と言われ渋々食べた。多動症くんの父親は転勤しているみたいでずっと留守だった。

ご飯を食べたら多動症くんの遊び相手をした。午後七八時くらいになると彼の母親が私を家まで送ってくれた。どれくらいの期間か覚えていないけれど、しばらくの間そんなおかしな生活が続いた。逃げ場のない場所に閉じ込められて、私は体も心も休むことができなかった。

多動症にトイレに連れ込まれて、彼が用を足すまで外に出るなと言われたことがあった…。狭いトイレの中でやることもなく多動症くんのうんこの匂いを嗅ぎ続け、彼の母親は私たちがトイレに入っているのを知っているくせに何も声をかけてこなかった。

結構長い時間トイレに閉じ込められて、私は知らないうちに我慢していたおしっこを漏らしてしまった。それに気づいた多動は迷惑そうに母親にそのことを伝えた。

彼の母親洗われている間、めちゃくちゃ惨めな気持ちになっていた。何故こんな目に遭わなきゃいけないんだろうとぼんやり考えていた。

学年が上がってから多動症に家に連れてかえれることはなくなった。多動くんの母親と会うこともなかった。

 

 

後になって知ったことだけど、どうやら私の母親が多動症の母親に嘘を吹き込んだみたい。

母子共に祖母から虐待されてろくに飯を食べていない、そんな感じのことを伝えたらしい。それを信じた向こうの母親は多動症くんを使って、私を家に呼んでご飯を食べさせていたみたい。

もう、呆れるわ。いろいろ矛盾しているのに何故母親の言うことを向こうは信じてしまったんだ。

暴力を振るわれているのなら外に助けを求めて家出をすればいいのに。ご飯が出されないのなら母親自らご飯を作ればいいのに。普通はそう考えるはずなのに、なぜそのことに疑問を持たなかったんだろう?

仮にそれが事実だとしても、自分で解決しようとしないで児相とかに通報すれば良かったのに。私の母親の言うことが本当のことか、私に聞くこともなかったし。おかげで私は無意味にストレスに晒された。

向こうの母親は私をみて「おどおどしていた」みたいなことを言っていたらしいけど、そりゃ暴力的な男の子に脅されて家に仕方なく来たのだからおどおどしていて当然よ…。

私の母親も何を考えていたんだろう? 自分たちは可哀想アピールして何になると思っているんだろう?

 

 

小三、私に仲のいい女の子の友達ができた。多動症くんは私たちの遊びに加わってくるようになった。女の子はとても明るい子で、三人での遊びはなんだかんだ言って楽しかった。

ある時、周りの男の子たちが「この二人のうち誰が好き(ガキの言う「好き」は「一緒にいて楽しい人」のこと)なの?」と多動症くんに聞いた。そしたら多動くんは女の子の方を指した。

その時、もう彼に付き纏われることはないんだと言う安堵感と、今までの苦労はなんだったんだろうという虚無感にとらわれた。それで何故だか憂鬱な気持ちになっていた😓

最後に見かけたのは中学生の頃街で見かけた学ラン姿の多動症くん。小学校からの友達と一緒に声をかけたけど気づかれなかった。

 

 

本当自分、小さい頃から無意味にストレスにたえてきたな。本当に無意味だった。耐えたところで何かになるわけでないのに。

簡単にSOSを大人に伝えられるような子供だったら良かったな😭 SOSを出す機会を奪われまくって無気力になってしまった。

多動くんももしかしたら私を家に引っ張って帰るの嫌だったでしょうね。母親の言うことは絶対だと嫌々引っ張り回していたのかも。私と遊ぶじゃなくて遊んであげているとか考えていたのかもね。多動くんも他の男の子と遊べば良かったのにね。かわいそうだね。

多動症くんも適切な治療を受けて普通の人間になっていたらいいな。

誰もハッピーにならないクソみたいな出来事を思い出したので書いた。